賃料上昇を、そのまま収益改善と読まないために
沖縄県では賃料が上がっているという話を耳にする機会が増えました。
2025年の賃料動向調査でも、多くの間取りで前年を上回る賃料水準と、高い稼働率が示されています。
ただし、県全体の平均賃料が上がったことだけで、個別の部屋も値上げできるとは限りません。
間取り、地域、築年数、駐車場、競合物件、入居希望者の動きによって、募集条件の受け止められ方は変わります。
この記事では、おきぎん経済研究所の賃料動向調査の要点を整理したうえで、賃貸オーナーが賃料・空室・維持費をどうつなげて確認するかを考えます。
稼働率98.3%でも、間取りごとに需給は違う
おきぎん経済研究所の「おきぎん賃料動向ネットワーク調査(2025年)」は、県内の賃貸管理会社へのヒアリングと不動産情報サイトのデータをもとに、沖縄県内の賃料水準と稼働状況をまとめたものです。
賃料データの抽出日は2025-10-31で、管理会社へのヒアリングは2026-05-16から2026-07-21に実施されています。
この調査の賃料は、共益費と駐車場代を除いた水準です。募集時の総支払額や、オーナーの実際の手残りを直接示す数字ではありません。
主な結果は次のとおりです。
| 項目 | 調査で示された状況 | オーナーが読むときの留意点 |
|---|---|---|
| 稼働率 | 全地域で95%以上、全地域平均98.3% | 管理会社へのヒアリングによる現場感覚であり、物件戸数を集計した空室率ではありません。 |
| 新設貸家 | 2025年度は5,536戸、前年度比3.7%増 | 新しい供給が増えても、間取り・地域・入居者層が異なれば自物件の競合とは限りません。 |
| 賃料 | 中古2K〜2LDKを除き、タイプ別平均賃料は前年を上回る | 平均値には物件構成やサンプル数の違いも影響します。個別物件へのそのままの当てはめはできません。 |
| 需給 | ファミリー向けは不足傾向、単身向けは地域によって充足・過剰傾向 | 同じ市内でも、駅・道路・駐車場・設備などで募集反応は分かれます。 |
タイプ別の県内平均賃料を見ると、新築の上昇幅が目立ちます。
| 間取り区分 | 新築の2025年平均賃料 | 前年比 | 中古の2025年平均賃料 | 前年比 |
|---|---|---|---|---|
| 1R〜1K | 60,700円 | 6.9%増 | 49,600円 | 3.3%増 |
| 1DK〜1LDK | 74,800円 | 9.4%増 | 60,900円 | 2.5%増 |
| 2K〜2LDK | 99,900円 | 8.4%増 | 73,100円 | 横ばい |
| 3K〜3LDK | 117,500円 | 9.0%増 | 91,200円 | 5.9%増 |
保有物件の地域を検討するときは、ここに示した県平均だけで済ませず、参考資料に挙げた調査報告書の原文で「主なエリアの動向」と間取り別の地域データを確認することをおすすめします。
同報告書には、地域区分ごとの新築・中古別の賃料水準と前年からの増減率が掲載されています。
ただし、「沖縄市及び近隣町村」や「豊見城市及び東南部」のように複数の市町村を含む調査独自の区分もあります。自物件の所在地、競合物件、入居者の動きを照らし合わせて読む必要があります。
新築では建築費の上昇、中古では電気料金などの維持費、金利、退去後の原状回復費の上昇が、賃料水準を押し上げる背景として調査で挙げられています。
一方で、これは各タイプの平均的な水準です。築年数や面積、設備が違う部屋同士を比べた数字でもあるため、個別の賃料改定を決める答えではありません。
供給が増えても、広めの間取りは同じように増えない
2025年度の新設貸家は3年連続の増加となりました。
那覇市、浦添市、うるま市、豊見城市、糸満市、宮古島市などで増加がみられます。
しかし、貸家の着工増加だけから「競合が増えるので家賃は下がる」と結論づけるのは早計です。
調査では、2K〜2LDKは不足・やや不足とする回答が多く、3K〜3LDKも不足傾向が続くとされています。広めの間取りは平均入居期間が長く、市場に出る戸数が限られやすいことが背景です。
反対に、1R〜1Kは地域によるばらつきが大きく、那覇地区では充足または過剰傾向の地域もあるとされています。
同じ「賃貸需要が強い沖縄県」でも、単身向けとファミリー向けを同じ需給として扱わないことが大切です。
オーナーが確認すべきなのは、県内全体の新設戸数ではなく、自分の部屋と近い間取り・築年数・設備・駐車場条件の募集が、どの程度あるかです。
新築の賃料上昇と、中古物件の募集力は別に考える
新築賃料が上昇している局面では、中古物件でも「新築が高くなったから自分も上げられる」と考えたくなります。
しかし、入居希望者は新築と中古を同じ基準で比べるわけではありません。
新築には、築浅の設備、室内状態、断熱性、共用部の印象などが含まれます。中古物件が新築の賃料帯に近づく場合は、その差をどう説明できるかが重要です。
例えば、駐車場の台数と料金、通勤・通学へのアクセス、室内の清掃状態、エアコンやインターネット環境、収納、水回りの状態は、家賃だけでは表せない比較材料になります。
中古2K〜2LDKの県平均賃料が前年並みだったことも、見逃せない点です。
ファミリー向けの不足感があっても、全ての中古物件で賃料上昇が受け入れられるわけではありません。建物ごとの状態や競合との差を確認して、賃料と条件をセットで考える必要があります。
平均賃料ではなく、自分の部屋の競合と反応を見る
賃料を見直すときは、平均賃料を目標額にするより、次の5つを一緒に確認する方が実務的です。
| 確認する軸 | 管理会社と確認したいこと |
|---|---|
| 入居者像 | 単身、カップル、子育て世帯、法人契約など、現在の条件で誰が候補になるか |
| 競合 | 間取り、築年数、面積、階数、駐車場、設備が近い募集物件の条件と掲載期間 |
| 総負担 | 家賃だけでなく、共益費、駐車場代、初期費用を含めた入居者側の負担感 |
| 物件の状態 | 清掃、修繕の要否、写真と内見時の印象差、共用部と建物周りの状態 |
| 募集反応 | 問い合わせ内容、内見につながったか、見送り理由、数値がなければ管理会社の代表的な反応 |
管理会社に「いくらなら必ず決まるか」と確定的な予測を求める必要はありません。
現行条件と見直し案で、どの入居者層を想定するのか、競合との差は何か、反応が弱い場合にいつ何を見直すのかを共有することが目的です。
閲覧数や問い合わせ件数を常に取得できない場合もあります。その場合は、掲載媒体、代表写真、よく受ける質問、内見後の感想、近い競合との違いを聞き、次の振り返り日を決めます。
維持費の上昇は、家賃に転嫁できるとは限らない
電気料金、清掃費、原状回復費、修繕費、借入金利が上がれば、オーナーの手残りは圧迫されます。
ただし、費用が上がったことと、入居者がその分の賃料を受け入れることは別の問題です。
賃料を上げる案では、年間の増収だけでなく、追加の空室日数、広告料、フリーレント、設備更新費、退去後の募集準備費まで同じ期間で比較します。
賃料を据え置く案でも、空室を短くできるなら、年間の家賃収入や資金繰りが安定する場合があります。
大切なのは、値上げか据え置きかを一律に決めることではありません。
保有期間、借入返済、近い時期の大規模修繕や売却の予定も踏まえ、許容できる空室期間と手残りを先に決めてから募集条件を比べます。
今後1〜2年は、間取り別・地域別の差を前提に見る
調査に協力した管理会社の見通しでは、今後1〜2年で不足傾向は縮小する見込みとされる一方、3K〜3LDKの広めの物件と離島地域では不足傾向が続く見通しです。
単身向けでは、地域によって需給の適正化や供給過多が続く可能性も示されています。
これは将来の家賃を予測するものではありません。調査対象の物件構成やサンプル数は年によって異なり、地域別の増減にはその影響も含まれます。
ValueLabとしては、今後も「県平均が上がっているか」だけでなく、間取りと地域を分けて、稼働率を保てる条件かを確かめることが重要だと考えます。
建築費や維持管理費、金利が上がる局面ほど、希望する賃料を先に置くのではなく、競合との比較と募集開始後の反応を見ながら条件を検証する姿勢が必要です。
特に新築供給が増える地域では、家賃差だけでなく、駐車場、設備、生活利便性、入居後の管理品質まで含めた競争になりやすくなります。
次の管理会社との打ち合わせで確認したいこと
最後に、次の打ち合わせでは以下を確認します。
- 自分の部屋と近い競合物件は、どの賃料・総負担・条件で募集されているか
- 間取りごとの需給は、自物件がある地域でどうなっているか
- 駐車場、設備、室内状態、共用部に、家賃以外で選ばれにくくなる要因はないか
- 現行賃料、見直し案、空室日数、広告料や追加費用を比べたとき、手残りはどう変わるか
- 問い合わせや内見の反応が弱い場合、いつ、何を、どの順番で見直すか
県全体の賃料上昇は、保有物件を見直すための出発点にはなります。
しかし、最終的な募集判断は、平均賃料ではなく、物件ごとの競合と入居者の反応で決まります。
数字を一つの結論に使うのではなく、賃料、空室、維持費、管理負担をつなげて比べることで、無理のない賃貸経営を考えやすくなります。
参考資料:おきぎん経済研究所「おきぎん賃料動向ネットワーク調査(2025年)」(2026-08-21公表)









