相続・資産承継

相続対策で取得した不動産の評価見直しへ。確認したいポイント

令和8年度改正で前提が変わる 不動産を使う相続対策の見直しポイント

目次

財務省が公表した「令和8年度税制改正の大綱」をもとに、貸付用不動産の相続税・贈与税評価の見直しを読み解いた記事です。

相続対策の不動産活用は、何が変わるのでしょうか?

相続対策として、賃貸アパートや収益物件を購入する方法は広く知られています。
現金よりも不動産の相続税評価額が低くなりやすいため、資産全体の評価を下げる効果が期待されてきました。

しかし、令和8年度税制改正の大綱では、一定の貸付用不動産について評価方法の見直しが示されています。

では、どのような不動産が対象になるのでしょうか。
この記事では、不動産投資家だけでなく、相続対策で不動産を活用する人に向けて、確認したいポイントを整理します。

まず結論から。貸付用不動産評価・4つの読み方

① 対象は、課税時期前5年以内に取得又は新築した一定の貸付用不動産です。
購入や新築など、対価を伴う取引で取得したものが主な対象になります。

なお、不動産小口化商品等は、取得時期にかかわらず別枠で対象となる場合があります。

② 評価は、時価に近づく方向です。
課税上の弊害がない限り、取得価額に地価変動等を考慮した価額の80%で評価できる整理も示されています。

③ 1億円で貸付用不動産を取得すると、評価差は大きく変わります。
従来の相続税評価では約6,048万円、改正後5年以内の簡便評価を使える場合は約8,000万円と見る例があります。

④ 相続対策は、購入時期だけで判断しにくくなります。
収益性、納税資金、家族の承継方針まで含めて考える必要があります。

つまり、「不動産を買えば相続税評価が下がる」という単純な見方は、今後さらに危うくなります。

どれくらい評価が下がるのでしょうか?

まず、不動産を使う相続対策の効果を数字で見てみます。

たとえば、現金1億円を持っている場合、相続税評価も原則として1億円です。

では、その1億円で貸付用不動産を購入した場合はどうでしょうか。
ここでは、土地6,000万円、建物4,000万円の賃貸アパートを想定します。

以下は、制度の効果を説明するための簡略化した仮定です。
土地は路線価評価80%、借地権割合30%、借家権割合30%、賃貸割合100%として計算します。

建物は固定資産税評価60%、借家権割合30%、賃貸割合100%として計算します。

項目 計算の前提 評価額
土地 6,000万円 × 路線価評価80% × 貸家建付地評価91% 4,368万円
建物 4,000万円 × 固定資産税評価60% × 貸家評価70% 1,680万円
合計 土地評価 + 建物評価 6,048万円

この例では、1億円の現金が、貸付用不動産では約6,048万円の評価になります。
評価額の差は約3,952万円です。

相続税は財産評価額をもとに計算されるため、この差は非常に大きな意味を持ちます。

もちろん、実際の評価は土地の路線価、借地権割合、賃貸割合、固定資産税評価額によって変わります。

それでも、相続対策で不動産が使われてきた理由は、この評価差にあります。

改正後の5年以内評価では、何が違うのでしょうか?

では、同じ1億円の貸付用不動産を、改正後の5年以内取得として見たらどうなるでしょうか。

大綱では、課税上の弊害がない限り、取得価額に地価変動等を考慮した価額の80%で評価できる整理が示されています。

地価変動がないものとして単純化すると、差は次のように見えます。

ケース 相続税評価額 現金1億円と比べた評価減
現金で持つ 1億円 なし
1億円で貸付用不動産を取得した場合(従来の相続税評価) 6,048万円 3,952万円低い
1億円で貸付用不動産を取得した場合(改正後5年以内の簡便評価を使える場合) 8,000万円 2,000万円低い

見方はシンプルです。

従来の相続税評価の例では、1億円で取得した不動産が約6,048万円の評価になります。
現金のまま持つ場合と比べると、約3,952万円の評価減です。

改正後5年以内でも、簡便評価を使える場合は約8,000万円と見る例になります。
この場合でも現金よりは約2,000万円低くなります。

ただし、従来の相続税評価では約3,952万円低くなっていたため、評価減の効果は約1,952万円小さくなります。

つまり、同じ1億円の不動産でも、短期取得では評価圧縮の効果がかなり小さくなる可能性があります。

どの不動産が対象になるのでしょうか?

今回の見直しでまず確認したいのは、対象となる不動産です。

なぜなら、すべての不動産が一律に新しい評価方法になるわけではないからです。

確認項目 内容
対象財産 一定の貸付用不動産
取得時期 課税時期前5年以内
取得方法 対価を伴う取引による取得又は新築
関係する税目 相続税・贈与税
適用時期 令和9年1月1日以後に相続等で取得する財産
別枠で注意するもの 不動産特定共同事業契約や信託受益権に係る一定の貸付用不動産

ここでいう貸付用不動産は、賃貸アパート、賃貸マンション、貸家、収益物件などが想定されます。
相続開始前や贈与前に、短期間で取得した不動産ほど確認が必要です。

また、不動産小口化商品や信託受益権のように、現物不動産とは違う形で保有する商品にも注意が必要です。

一定のものは、取得時期にかかわらず、通常の取引価額に相当する金額で評価される場合があります。

一方で、取得又は新築から5年を超えている場合は、従来どおり路線価等を用いた通達評価が可能とされています。
ただし、5年を超えれば必ず有利という意味ではありません。

物件価格、賃料水準、借入条件、売却しやすさによって、相続対策としての効果は大きく変わります。

評価方法はどのように変わるのでしょうか?

今回の見直しでは、課税時期における通常の取引価額に相当する金額で評価する方向が示されています。

簡単に言えば、売買価格や市場価格に近い金額で見るということです。

ここで分かりにくいのが、80%評価との関係です。

今回の制度は、原則として「時価に近い評価」を求めています。
一方で、すべての物件について毎回、厳密な時価を出すのは簡単ではありません。

そこで、課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価変動等を考慮した価額の80%で評価できる、という整理が示されています。
つまり、80%評価は「従来どおり大きく評価を下げられる特例」ではありません。

時価に近い評価を前提にしつつ、実務上使える簡便的な計算方法と見る方が分かりやすいです。

ではなぜ、そのような見直しが必要なのでしょうか。

背景には、市場価格と相続税評価額の差を使った、短期的な評価圧縮への問題意識があります。

評価の場面 見直し後の考え方
原則 課税時期の時価に近い金額
80%評価 時価に近い評価を出すための簡便的な計算方法
計算の考え方 取得価額を基に、地価変動等を考慮した価額の80%
条件 課税上の弊害がない場合
5年超の物件 従来どおり通達評価が可能

取得価額を基にする場合でも、単純に購入価格の80%でよいとは限りません。
大綱では、地価の変動等を考慮して計算した価額の80%という整理になっています。

つまり、取得時の価格、課税時期までの地価変動、貸付実態などを確認することが重要になります。
税務判断が必要な部分もあるため、実際の申告では税理士への確認が欠かせません。

なお、大綱では経過措置も示されています。

たとえば、通達に定める日までに、被相続人等がその日の5年前から所有している土地に新築した家屋などは、改正後の評価方法を適用しない扱いとされています。

そのため、「5年以内に新築した貸付用不動産」がすべて機械的に対象になるわけではありません。

相続対策として、何を見直すべきでしょうか?

相続対策で不動産を使う場合、これまでは評価額の圧縮効果に目が向きがちでした。
しかし、今後は「いつ買ったか」と「なぜ買ったか」が、より問われやすくなります。

短期間で大きな物件を購入し、相続税評価だけを下げようとする設計は、効果を慎重に見直す必要があります。
特に、相続開始が近いと見込まれる場面では、取得から5年以内に該当する可能性があります。

その場合、従来の通達評価を前提にしたシミュレーションでは、納税額の見込みがずれるかもしれません。
一方で、不動産活用そのものが否定されたわけではありません。

安定した賃料収入を生む物件や、家族が長期保有できる物件には、今後も資産承継上の意味があります。

大切なのは、税額を下げるためだけに買うのではなく、家族が引き継げる資産かどうかを見ることです。

投資家と相続対策層は、どこを確認すべきでしょうか?

不動産投資家にとっては、取得価格と出口価格の見方が重要になります。

相続対策で購入した物件でも、将来売却できなければ、納税資金や遺産分割で困る可能性があります。
相続対策を考える人にとっては、家族の意思確認も欠かせません。

相続人が賃貸経営を引き継げるのか、管理を外部委託するのか、売却も選べるのかを整理したいところです。

今回の見直しから確認したい点は、次の3つです。

1つ目は、取得時期です。課税時期前5年以内に入るかを確認します。

2つ目は、取得価額と評価見込みです。購入価格だけでなく、地価変動等も確認します。

3つ目は、資産全体のバランスです。不動産に偏りすぎると、納税資金が不足することがあります。

沖縄の不動産は、エリアによって価格、賃料、流動性が大きく異なります。
相続対策でも投資でも、物件単体ではなく、家族の資産全体で判断することが大切です。

不動産を使う相続対策は、どう考え直すべきでしょうか?

今回の見直しで大切なのは、不動産活用が使えなくなるという話ではありません。

確認すべき点は、3つあります。

1つ目は、5年以内に取得又は新築した貸付用不動産は、評価方法が変わる可能性があることです。

2つ目は、取得価額の80%という表現だけで、単純に判断しないことです。

3つ目は、相続対策の目的を、税額圧縮だけに置かないことです。

不動産は、賃料収入を生む一方で、管理、修繕、空室、売却の難しさも抱えます。
だからこそ、取得前に「誰が持ち続けるのか」「納税資金は足りるのか」を確認する必要があります。

相続対策として不動産を活用する場合は、税制上の効果だけで判断しないことが大切です。
将来その不動産を誰が管理するのか、納税資金をどう確保するのか、家族の間で無理なく引き継げる形になっているのか。

制度の見直しをきっかけに、そうした点まで一度確認しておきたいところです。

※出典:財務省「令和8年度税制改正の大綱」。本記事は制度理解のための一般的な情報整理であり、個別の税務判断は税理士等の専門家へご確認ください。

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