相続税が少なくなっても、家族のお金が足りるとは限らない
「現金で残すより、アパートにした方が相続に有利」。そう聞くと、不動産を持つこと自体が相続対策になるように感じるかもしれません。
賃貸不動産は、家賃収入を生む資産を家族へ引き継げます。一定の条件では、現金で持つ場合より相続税評価額が低くなることもあります。
ただ、購入後に現金がほとんど残らなければ、生活費や修繕費の支払いに困ることもあります。子どもが賃貸経営を引き継ぎたいかも、聞いておきたいところです。
相続税が少なくなるだけでなく、必要なお金が残り、家族が無理なく管理できるかまで考えておきましょう。
前回は、借入で不動産を持つ場合の収入・返済・分け方を比較しました。借入の有無にかかわらず、まず知っておきたいのが、現金と不動産の相続税評価の違いです。
同じ金額の財産でも、現金と賃貸不動産では評価の仕方がどう違うのでしょうか。
現金と賃貸不動産では、相続税評価の仕組みが違う
現金は原則としてその金額で評価します。一方、賃貸不動産は土地と建物を分け、それぞれの評価方法と賃貸の状況に基づいて計算します。
相続税評価額とは、相続税を計算するために求める財産の価額です。不動産の購入価格や、売却できる価格と同じではありません。
預貯金は相続開始時の残高が基本となり、原則として税引後の既経過利子も加えます。既経過利子とは、その時点で解約した場合に受け取れる利息です。
定期預金等以外で利子が少額の場合には、残高で評価できる取扱いがあります。残高証明等をそろえ、利息を含める必要があるか確認します。
土地は、路線価がある地域では路線価を基に形状などを補正して評価します。路線価がない地域では、固定資産税評価額に所定の倍率を掛ける倍率方式を使います。
自分の土地に所有するアパートを建てて貸している場合、その敷地は「貸家建付地」として評価することがあります。入居者の権利があり、所有者が土地や建物を自由に使えないことを評価に反映します。
| 財産 | 評価の基本 | 賃貸による調整など |
|---|---|---|
| 現金・預貯金 | 現金の金額、預金残高と必要な利子調整 | 不動産のような賃貸による調整はない |
| アパートの敷地 | 路線価方式・倍率方式で求める自用地としての価額 | 借地権割合・借家権割合・賃貸割合を使って調整 |
| 貸している建物 | 原則として固定資産税評価額 | 借家権割合・賃貸割合を使って調整 |
借地権割合と借家権割合は、土地や建物を借りる権利の価額を計算する際に使う割合です。対象地の路線価図・評価倍率表などで確認します。
賃貸割合は、原則として相続開始時に貸している各独立部分の床面積で計算します。単純な入居戸数の割合と一致するとは限りません。
一時的な空室を賃貸中として扱える場合もありますが、募集状況や前後の賃貸実態などの確認が必要です。空室なら必ず対象外、募集中なら必ず対象、とはいえません。
また、財務省の令和8年度税制改正の大綱には、課税時期前5年以内に取得・新築した一定の貸付用不動産の評価見直しが示されています。
大綱では2027年1月1日以後に相続等で取得する財産への適用とされています。これから購入する場合は、取得時期や相続時期によって評価方法が変わらないか、税理士に確認しておきましょう。
こうした見直しの対象にならず、一般的な土地・貸家の評価方法を使える場合、現金との差はどのくらいになるのでしょうか。
仮の数字で、評価額の違いを確かめる
ここで置く条件では、現金6,000万円に対し、一棟の賃貸不動産の評価額は3,160万円になります。どこで差が生まれるか、土地と建物を分けて計算してみます。
同じ相続開始時点で、現金6,000万円を保有している場合と、6,000万円で購入した賃貸不動産を保有している場合を比べます。借入はないものとします。
土地・建物を直接所有する一棟物件を想定し、一般的な貸家建付地・貸家の評価方法を適用できるものとします。前章の評価見直しは、この計算には織り込んでいません。
比較するのは、現金で残すか、不動産に換えるかを考える6,000万円分だけです。購入諸費用や、別に確保する生活資金は含めていません。
| 計算の前提 | 仮定する値 |
|---|---|
| 土地の自用地としての評価額 | 3,000万円 |
| 建物の固定資産税評価額 | 1,000万円 |
| 借地権割合 | 60% |
| 借家権割合 | 30% |
| 賃貸割合 | 100% |
3,000万円と1,000万円は、購入価格の内訳ではなく、説明のために置いた評価額です。実際には物件ごとの資料から求めるため、沖縄の物件が一律にこの割合で評価されるわけではありません。
土地の評価は、自用地としての価額から、借地権割合・借家権割合・賃貸割合に応じた額を差し引きます。
土地:3,000万円×(1-60%×30%×100%)=2,460万円
貸家の評価は、固定資産税評価額から、借家権割合と賃貸割合に応じた額を差し引きます。
建物:1,000万円×(1-30%×100%)=700万円
合計は2,460万円+700万円=3,160万円です。現金6,000万円との評価額の差は2,840万円となります。
この2,840万円が、そのまま相続税の軽減額になるわけではありません。相続税は他の財産や債務、基礎控除、相続人の構成、税額控除などを踏まえて計算するためです。
基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数です。まず家族全体の財産で課税の見込みを確認し、そのうえで評価の差が税負担へどう影響するかを税理士と確かめます。
この例では小規模宅地等の特例も反映していません。区分マンション等に適用される評価補正も扱わず、個別の相続税額までは計算しません。
相続税評価額が3,160万円でも、売却価格がその金額になるわけではありません。売却していくら残るかは、査定額から売却費用や税金などを差し引いて、別に見積もります。
評価額が低くなるとしても、購入後にお金が足りなくなっては困ります。どのような備えがあれば、家族は安心して引き継ぎやすくなるでしょうか。
現金と手残りがあり、引き継ぐ人も決まっている
生活費や納税資金を別に残し、空室や修繕に備えるお金も用意しておけば、急な支払いにも対応しやすくなります。管理を引き受ける家族と、普段の仕事や暮らしと両立できるかも話しておきます。
家賃収入を残したいなら、まずは経費を払った後にいくら残るかを見ます。家賃の総額から管理費、固定資産税、保険料、修繕費等を差し引きます。
借入があれば返済も差し引き、所得税等と将来の修繕に備えるお金も見込みます。確定申告書の利益だけでなく、口座にいくら残ったかも確かめます。
購入前には、親自身の生活費・介護費をどれだけ残すかも決めておきます。相続後の納税・修繕・分割に必要なお金も見積もり、その残りから購入に回せる額を考えます。
納税と大規模修繕が同じ年に重なれば、両方のお金が必要です。同じ預金をそれぞれの支払原資として数えず、必要額と支払時期を書き出しておきます。
家族には「アパートを残したい」と伝えるだけでなく、管理会社から連絡が来たら誰が対応するかも相談します。管理を委託しても、修繕にいくら掛けるかなど、所有者が決めることは残ります。
一人が不動産を取得して他の兄弟にお金を渡すなら、そのお金をどこから用意するかも考えます。売って分ける案では、費用・税金等を引いた手残りと、売却に掛かる期間を調べます。
沖縄の物件でも、賃貸需要や管理のしやすさは地域・建物ごとに異なります。土地の権利、接道、修繕履歴などを確認し、地域名だけで収益性や売りやすさを判断しません。
反対に、現金や家賃の手残りが少ない場合、家族はどのような負担を抱えやすいのでしょうか。
現金が乏しいと、修繕や分割の支払いに困ることも
家賃だけで修繕費を賄えず、預金も少なければ、引き継いだ家族が自分のお金を出すことになりかねません。兄弟に渡すお金を用意できず、分割の話し合いが進まないことも考えられます。
税負担をどれだけ減らせるかに加え、購入後や相続後の支払いにも目を向けてみましょう。
| 気になる状況 | 家族に起こり得ること | 先に確かめること |
|---|---|---|
| 他の財産等を含めても課税の見込みが小さい | 評価が下がっても、税負担軽減の余地が小さい | 財産全体と基礎控除、適用する特例 |
| 購入後に使える現金が少ない | 生活・介護・納税・修繕への対応が難しくなる | 使途別の必要額と支払時期 |
| 空室や修繕で収支が崩れる | 家賃で支出を賄えず、家族の持ち出しが生じる | 実収支と減収時の資金繰り、工事見積り |
| 家族が経営を望まない、担当が決まらない | 連絡・意思決定・費用負担が家族の負担になる | 各人の希望と管理委託の範囲 |
| 分ける現金や売却の見通しが乏しい | 分割案や納税資金の準備が進みにくい | 分割案、査定根拠、売却後の手残り |
相続税がほとんど変わらなくても、経費を払った後の収入が家族の暮らしを支えることはあります。節税額が小さいからといって、保有する意味まで小さくなるとは限りません。
反対に、評価の差が大きくても、購入費用や長年の持ち出し、売却時の損失が重なれば、家族に残る財産が減る可能性があります。
相続時に税金が少なくなっても、その後の赤字が続けば負担は増えます。保有する期間をそろえ、受け取る家賃、修繕等の支出、最後に売却した場合の手残りまで比べます。
配偶者が取得する場合は、配偶者が亡くなったときの二次相続まで確認します。最初の相続では税金が少なくても、次に子どもが引き継ぐときの負担が大きくなる場合があります。
自分の家族で支払いに困らないかを調べるには、何の資料からそろえればよいのでしょうか。
財産一覧と収支明細をそろえ、家族の希望を聞く
まず財産一覧と預金残高をそろえ、生活費や納税などに必要な現金が残るかを確かめます。続いて収支明細と修繕予定を見ながら、誰が引き継ぐか、家族の希望を聞いてみましょう。
| 確認する順序 | そろえる資料・情報 | 判断すること |
|---|---|---|
| 財産と現金 | 財産・債務一覧、預金残高、生活・介護の資金計画 | 課税の見込みと、購入・保有に回せる資金 |
| 収支と修繕 | 入金・支出明細、賃貸借契約、修繕履歴・見積り | 家賃減少や工事支出があっても資金が足りるか |
| 評価と売却 | 路線価等、固定資産税評価資料、取得時期、査定・費用見積り | 適用する評価方法と、売却時に残る額・時期 |
| 承継と分割 | 家族別の希望、運営担当、分割案 | 誰が何を取得し、どの資金で負担を賄うか |
分からない金額は空欄にして、誰に聞くかを書き添えておきます。評価と税額は税理士、分割や権利関係は法律専門家、収支や修繕は管理会社、売却価格は不動産会社等に確認します。
税理士には、取得時期が分かる契約書や評価資料を見せ、評価見直しの対象になるか、使える特例があるかも確認します。この記事の計算例を、そのまま自分の物件に当てはめないようにしましょう。
家賃から必要な支出を払ってもお金が残り、引き継ぐ家族も経営に納得しているなら、不動産は暮らしを支える収入源になり得ます。持ち続けるのが難しくなったときに、売却できる見通しも持っておきたいところです。
手始めに、購入後に残る現金、年間の手残り、次の修繕に掛かるお金を書き出してみてください。その数字を家族と見ながら、アパートを引き継ぎたいか、売って分けたいかを話してみましょう。









