失敗しない不動産相続

相続するなら「築年数」より修繕履歴を見てほしい

相続するなら「築年数」より修繕履歴を見てほしい

目次

子どもが引き継ぐのは、建物とこれからの修繕です

親のアパートについて「築30年近いから、子どもには負担だろうか」と気になっていませんか。反対に、「数年前に修繕したから大丈夫」と考えている方もいるでしょう。

前回は、家賃が入っていても、修繕に必要な現金と管理の役割を知らなければ、家族は引き継ぎにくいと確認しました。では、その修繕はいつ、どこに、何をしたのでしょうか。

築年数は点検を考える入口です。引き継ぐ負担を知るには、過去の工事と現在の状態を照らし、次に必要な対応まで見ることが大切です。

築年数だけでは、次に必要な工事は分からない

同じ築年数の建物でも、使われ方、立地、点検や修繕の内容は異なります。築年数だけで「まだ使える」「もう建て替えるべき」とは決められません。

たとえば、沖縄県内に築28年の鉄筋コンクリート造アパートがあり、親が子どもに「屋上の防水工事は済ませた」と伝えたとします。しかし、子どもは施工した年、工事した範囲、工事後の点検結果を知りません。

「防水工事済み」でも、屋上全体を施工したのか、一部を補修したのかで、次に確かめることが変わります。工事後に別の場所で漏水が起きていれば、その対応も必要です。

まずは、工事をしたという記憶を、家族が確かめられる履歴に変えましょう。
家族が確かめられるように、どの資料を残せばよいのでしょうか。

「修繕した」を、工事の範囲と結果まで確かめる

修繕履歴は、工事名の一覧だけではありません。いつ、どこを、どのように直し、その後どうなったかまで分かると、次の点検に役立ちます。

「屋上防水」の請求書が見つかったら、契約書や工事報告書を照らして施工範囲を確認します。施工前後の写真、保証書、完了後の点検記録があれば一緒に保管します。

見積書だけでは、実際に工事が完了した証拠にはなりません。

次の表は、修繕履歴を整理するための例です。建物ごとに対象設備や必要な点検は変わるため、表を工事時期の一律の目安には使いません。

確かめる部分 過去の記録で見ること 現在の状態で見ること
屋上・バルコニーの防水 施工年、施工範囲、工法、完了記録 漏水の申告、排水や防水層の状態
外壁 補修・塗装した箇所、工事写真 ひび割れ、浮き、剥落の兆候
階段・廊下などの共用部 塗装・防水・部材交換の内容 さび、傷み、通行時の安全性
給排水・室内設備 修理や交換の時期、対象住戸 不具合の申告、未交換の設備

記録がそろっていても、「工事した箇所は今も問題ない」とまでは言えません。次は、現在の建物をどう確かめるかです。

修繕履歴と、いまの建物の状態は分けて見る

過去の工事は、その時点で行った対応を示します。現在の劣化や、工事をしていない部分の状態は、改めて確かめる必要があります。

管理会社の定期報告や入居者からの不具合連絡を集め、過去の工事箇所と照らします。

漏水、外壁のひび割れ、共用階段の傷みなどがあれば、写真と発見日を残し、建築士や施工業者などに調査の必要性と対応を確認します。

外壁の剥落など安全に関わる兆候は、相続準備の順番を待たずに専門家へ相談します。

沖縄では台風や塩害も気になるところです。ただし、海に近い、築年数が長いという理由だけで、その建物の劣化を断定することはできません。外壁、鉄部、防水、設備の状態を物件ごとに見てもらいます。

現在の状態が分かっても、家族が費用を用意できなければ引き継ぎ方は決めにくいでしょう。工事費はどのように見通せばよいのでしょうか。

次の工事は、費用だけでなく時期も並べる

点検で指摘された箇所を、対応の必要性と時期ごとに整理します。安全上の対応が必要な箇所と、状態を見ながら計画する箇所では、家族が用意する現金の時期が異なります。

見積書は、工事範囲、数量、仮設工事、追加工事が必要になる条件まで確認します。古い見積額をそのまま将来の確定費用とせず、実施を考える時点で専門家に更新してもらいます。

点検前の概算と、調査後の見積もりも分けて扱います。

屋上防水だけでなく外壁や設備の未対応箇所も並べ、工事の候補時期と金額を確認します。そのうえで、手元の修繕資金、家賃から積み立てられる額、借入返済を照らします。

相続が起きた場合の納税資金を考えるなら、同じ現金を工事費と納税の両方に充てられるものとして数えません。

修繕見積額から相続税額や相続税評価額を決めることはできません。相続税の申告要否や納税資金は、他の財産・債務や相続人の状況も含めて税理士に確認します。

では、親が記録を残していなかった場合、家族はどこから始めればよいのでしょうか。

履歴が見つからないときは、空欄を「未確認」として残す

書類が見つからないことと、工事をしていないことは同じではありません。親の記憶だけで履歴を埋めず、分かる事実と未確認の部分を分けます。

まず、管理会社に点検報告、不具合の受付記録、発注履歴の有無を聞きます。親が保管する請求書、工事写真、保証書も探します。

施工会社が分かるなら、残っている工事資料を確認します。資料が得られない箇所は、建築士や施工業者などに現状調査を相談します。

調査でも、壁の中など見えない部分まで必ず分かるわけではありません。調査範囲、分かったこと、追加調査が必要なことを報告書で確かめ、家族へそのまま伝えます。

履歴がないというだけで、保有や売却の結論を急ぐ必要はありません。

最後に、集めた資料をどう渡せば、子どもが自分で判断できるでしょうか。

一棟の「過去・現在・これから」を家族で共有する

親がまず用意したいのは、修繕の良し悪しを宣言する言葉ではなく、子どもが確認を続けられる資料です。一棟について次の三つを並べると、話し合いの出発点になります。

分けて残すこと 手元で確認する資料 次に確認する相手
過去に何をしたか 工事契約書・請求書、完了報告、写真、保証書 管理会社、施工会社
現在どうなっているか 点検報告、不具合連絡、現況写真 管理会社、建築士や施工業者
次に何が必要か 未対応箇所の一覧、調査結果、更新した見積書、資金の記録 建築の専門家、必要に応じて税理士

資料には日付を付け、見つからないものは「未確認」と記します。親が工事を判断してきた経緯も添えると、子どもは費用だけでなく、今後誰に相談すればよいかを知れます。

築年数は、点検を始める手掛かりです。過去の修繕、現在の状態、これからの費用と時期を分けて確かめると、家族は引き継ぐ負担を具体的に考えられます。

まずは直近の点検報告と、最後に行った大きな工事の書類を親子で一緒に開いてみてください。

 

参考資料

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