5,000万円、年間賃料450万円、表面利回り9%の一棟収益物件があります。
自己資金30%なら、自己資金IRRは約9.0%。自己資金10%なら約16.0%です。
同じ物件でも、資金計画によって数字は変わります。
あなたなら、IRRが高い16.0%の案を選ぶでしょうか。
この記事では、3つの数字を時間の流れに沿って整理します。
- 表面利回りは「入口」
- 手残りは「保有中」
- IRRは「出口まで」
表面利回り9%は、入口の数字にすぎない
表面利回りは、年間賃料を物件価格で割った数字です。
450万円 ÷ 5,000万円 = 9.0%
物件を探す入口では便利です。ただし、借入返済、運営費、取得費、修繕費、売却費、ローン残高は入っていません。
| 表面利回りから分からないこと | 判断への影響 |
|---|---|
| 返済・経費後に残る現金 | 保有中の資金繰りを読めない |
| 取得時に出す現金 | 実際の投資額を読めない |
| 売却時に戻る現金 | 出口で残債を消せるか分からない |
| お金を受け取る時期 | 回収の早さを比べられない |
表面利回りだけで買うかどうかを決めると、入口の数字で投資全体を判断することになります。
では、表面利回りを見たあと、保有中に残るお金はどう確かめればよいのでしょうか。
保有中に残るのは、年約188万円
賃料から返済と運営費を引けば、保有中の手残りが分かります。
ここでは、自己資金30%、借入70%で計算します。金利3.0%、35年返済です。
| 項目 | 金額・年額の概算 | 考え方 |
|---|---|---|
| 購入価格 | 50,000,000円 | 説明用の物件価格 |
| 自己資金 | 15,000,000円 | 購入価格の30% |
| 取得時諸費用 | 3,500,000円 | 購入価格の7%とした仮定 |
| 借入額 | 35,000,000円 | 購入価格の70% |
| 年間賃料収入 | 4,500,000円 | 満室想定収入 |
| 借入返済 | 1,616,371円 | 月約134,698円 |
| 固定資産税 | 400,000円 | 説明用の仮定 |
| 管理費 | 225,000円 | 賃料収入の5% |
| 保険料 | 150,000円 | 年額の概算 |
| 修繕費 | 225,000円 | 賃料収入の5% |
| 返済だけを引いた年間手残り | 2,883,629円 | 賃料収入-借入返済 |
| 返済・概算経費後の年間手残り | 1,883,629円 | 月約156,969円 |
保有中の手残りは、年約188万円、月約15.7万円です。
固定資産税、管理費、保険料、修繕費は概算です。空室、募集費、原状回復、大きな設備交換があれば、実際の手残りは下がります。固定資産税だけを総経費として扱わないことも大切です。
では、保有中の手残りが分かれば、投資全体を判断できるのでしょうか。
IRRは、出口までのお金を年率で見る
保有中の手残りだけでは判断できません。
手残りは保有中の数字であり、取得時の支出と売却時の回収を含まないからです。
IRRとは何か
IRRはInternal Rate of Returnの略で、日本語では「内部収益率」です。
表面利回りは物件価格に対する賃料収入の割合です。
自己資金IRRは、投資家が実際に出したお金と受け取ったお金を、発生時期も含めて測ります。
見るお金は4つです。
- 取得時の持ち出し
- 保有中の手残り
- 途中の追加支出
- 売却費と残債を引いた売却手取り
自己資金IRRは、これらの現在価値の合計がゼロになる年率です。
簡単にいえば、「購入から売却まで、自己資金を年率何%で運用した計画か」を1つの数字にします。
IRRが10%でも、毎年10%の現金が入るわけではありません。売却時にまとめて回収する計画でも10%になるためです。
将来の賃料や売却価格が変われば、IRRも変わります。
| 指標 | 見る時点 | 分かること | 分からないこと |
|---|---|---|---|
| 表面利回り | 入口 | 価格に対する満室賃料 | 返済、経費、出口 |
| 年間手残り | 保有中 | 1年間に残る現金 | 取得費、売却、時間 |
| 自己資金IRR | 出口まで | 全期間の自己資金効率 | 安全性、利益額 |
日付が毎年同じならIRR関数、取得費や修繕費の日付が不規則なら
関数を使います。
IRRに入れる初期投資は、頭金だけではありません。仲介手数料、登記費用、融資関係費、取得時の工事費など、投資家が実際に出した現金を含めます。
同じ物件で自己資金IRRが約9.0%と約16.0%なら、高いほうがよいのでしょうか。
IRR16%でも、安全とは限らない
高いほうがよいとは限りません。IRRが上がった理由を確かめる必要があります。
想定条件は、購入価格5,000万円、年間賃料450万円、取得費350万円、保有10年、売却価格4,500万円です。税金は個人差が大きいため含めない税引前試算です。
| 比較項目 | 自己資金30% | 自己資金10% | フルローン比較 |
|---|---|---|---|
| 初期の現金持ち出し | 18,500,000円 | 8,500,000円 | 3,500,000円 |
| 借入額 | 35,000,000円 | 45,000,000円 | 50,000,000円 |
| 月額返済 | 約134,698円 | 約173,183円 | 約192,425円 |
| 年間返済 | 約1,616,371円 | 約2,078,191円 | 約2,309,101円 |
| 概算経費後の年間手残り | 約1,883,629円 | 約1,421,809円 | 約1,190,899円 |
| 月額手残り | 約156,969円 | 約118,484円 | 約99,242円 |
| DSCR(返済余裕率) | 約2.17倍 | 約1.68倍 | 約1.52倍 |
| 10年後のローン残高 | 約28,404,545円 | 約36,520,129円 | 約40,577,922円 |
| 10年後の売却手取り | 約15,245,455円 | 約7,129,871円 | 約3,072,078円 |
| 自己資金IRR | 約9.0% | 約16.0% | 約33.8% |
物件の賃料収入とNOI(純営業利益)は変わっていません。IRRが上がった主因は、自己資金という分母が小さくなり、借入によるレバレッジが強くなったことです。
借入を増やすほどIRRは上がりました。一方で、手残り、DSCR(返済余裕率)、売却手取りは下がっています。
DSCR(返済余裕率)は、NOI(純営業利益)を年間返済額で割った返済余力の指標です。
下振れも見ます。年間賃料を10%減、10年後の売却価格を4,200万円とします。
| 下振れ時の比較 | 自己資金30% | 自己資金10% | フルローン比較 |
|---|---|---|---|
| 年間手残り | 約1,478,629円 | 約1,016,809円 | 約785,899円 |
| DSCR | 約1.92倍 | 約1.49倍 | 約1.34倍 |
| 売却手取り | 約12,335,455円 | 約4,219,871円 | 約162,078円 |
| 自己資金IRR | 約5.4% | 約8.6% | 約18.5% |
売却価格が下がると、3案すべてのIRRは低下します。フルローンでも売却手取りは約16万円残りますが、安全余裕は小さい状態です。
売却費の増加や追加修繕で持ち出しへ変わる可能性があるため、IRRの数字だけでなく出口の余裕額を確認します。
IRRは重要ですが、手残り、DSCR(返済余裕率)、LTV(総資産有利子負債比率)、売却手取り、手元資金と一緒に見ます。
では、借入を増やさずにIRRと安全性を改善するには、何を見直せばよいのでしょうか。
沖縄では、出口の根拠を先に確かめる
見直すのは、賃料、空室期間、修繕、融資条件、売却価格の根拠です。
収入を増やすだけでなく、出口まで再現できる計画にします。
| 見直す項目 | 期待できる効果 | 判断条件 |
|---|---|---|
| 退去後に8室を月2,000円上げる | 最大年192,000円の増収 | 相場、設備、空室期間が見合う |
| 設備や募集条件を改善する | 賃料維持、空室短縮 | 改修費を何年で回収できるか |
| 台風・塩害の予防修繕 | 突発支出と価値低下を抑える | 防水、金物、室外機の履歴がある |
| 自己資金を追加する | 返済とDSCRを改善 | 追加後も予備資金が残る |
| 金利を交渉する | 手残りを改善 | 実際の条件が取れ、上昇時も耐えられる |
沖縄では、経年劣化、台風・塩害、資材の納期、駐車場需要が手残りと出口を変えます。
基地・観光・学生・通勤などの需要も、地域名だけでなく入居者属性と競合物件で確かめます。
自己資金を増やすと、IRRは下がる場合があります。それでも、修繕余力と出口の安全幅が増えるなら、率の一部を手放す意味があります。
入口・保有中・出口の3段階を、実務ではどの順番で確認すべきでしょうか。
入口・保有中・出口の順に再計算する
入口、保有中、出口の順番で確認します。
- 入口:価格、満室賃料、頭金、取得費を並べる
- 保有中:現況賃料、運営費、返済、修繕から手残りを出す
- 出口:売却価格から売却費と残債を引く
- 全期間:入出金の日付を並べ、IRRを計算する
- 下振れ:賃料、金利、売却価格を悪化させて再計算する
今日確認できるチェックリスト
- 表面利回りだけで判断していないか
- 頭金だけでなく取得費も入れたか
- 返済後ではなく、経費後の手残りを見たか
- 修繕と設備交換を発生年へ置いたか
- 売却費・残債後の手取りを入れたか
- IRRの高さが、賃料改善・早期回収・借入増加のどれで生まれたか説明できるか
- 下振れ時にも売却費・残債後の手取りが残るか
判断フローチャート
| 判断の分かれ目 | 次の検討へ進む | 前提を作り直す |
|---|---|---|
| 保有中の手残り | 空室・修繕後も黒字 | 満室前提でしか黒字にならない |
| IRRが高い理由 | 運営改善や早い回収 | 借入増加や楽観的な出口だけ |
| 売却時の手取り | 売却費と残債を引いても現金が戻る | 売却費や価格下落で手取りが消える |
この3つがそろえば、IRRを単独の順位表ではなく、出口までの判断材料として使えます。
では、表面利回り・手残り・IRRを、最終的にどう使い分ければよいのでしょうか。
まとめ|3つの数字を時間軸で使い分ける
表面利回りは入口、手残りは保有中、IRRは出口までを見る数字です。
表面利回りで候補を絞り、手残りで保有中の資金繰りを確かめます。そのうえで、取得費、追加支出、売却手取りまでIRRへ入れます。
IRRだけで答えを出すのではありません。
高い理由と崩れる条件を説明できたとき、IRRは出口まで考える投資指標になります。
