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  • 「現況有姿で貸す」ときに契約書へ残したいこと

    「現況有姿で貸す」ときに契約書へ残したいこと

    管理会社から「現況有姿で案内してよいか」と聞かれたら

    管理会社から、築30年以上のアパートについて連絡がありました。

    「洋室のドアは少し重く、床には細かな傷があります。窓のクレセント錠にも緩みがありますが、契約書へ『現況有姿』と書き、入居者に了承してもらえば、このまま募集してよいでしょうか」

    あなたなら、どう答えますか。

    すべてを新品同様に直せば修繕費が膨らみます。
    一方、生活や安全に関わる不具合まで「古い物件だから」と残せば、入居後の修繕要求や費用負担をめぐるトラブルにつながります。

    必要なのは、現況有姿で貸せるかを一言で決めることではありません。
    共有する状態、先に修繕する箇所、費用負担を順番に分けることです。

    この場面で、オーナーが最初に陥りやすい判断の飛躍は何でしょうか。

    「現況有姿」と書けば直さなくてよい、が最初の落とし穴

    最初の落とし穴は、現況有姿という言葉を、貸主の責任をまとめて外す免責条項のように扱うことです。

    現況有姿は、契約時点の状態を示して認識をそろえるための言葉です。
    それだけで、貸主の修繕義務や費用負担まで一括して決まるわけではありません。

    実務では、次の三つが混同されやすくなります。

    • 入居者が、傷や古さなどの現状を確認していること
    • その状態のまま、契約で予定した住まい方ができること
    • 将来の修繕義務や修繕費を、誰が負担するかということ

    壁紙の色あせを写真で示すことと、施錠できない窓を修繕せずに引き渡すことは同じではありません。
    反対に、使用に支障のない小傷まで一律に交換すれば、募集前の費用が増えます。

    見落としと過剰対応の両方を避けるには、「了承してもらう状態」と「貸主が修繕を検討する状態」を何によって分ければよいのでしょうか。

    状態共有・修繕義務・費用負担を4つの軸で分ける

    分けるのは、「状態の共有」「修繕の要否」「費用負担」の三つです。

    状態の共有は、契約時点の古さや不具合を、現況写真、設備表、物件状況確認書、説明記録で特定することです。

    修繕の要否は、使用・収益に必要な機能、安全性、悪化の可能性から考えます。
    民法第606条は、賃借人の責任で修繕が必要になった場合を除き、使用・収益に必要な修繕を賃貸人の義務としています。

    費用負担は、原因、契約内容、故意・過失の有無などから整理します。
    原因が分からない段階で「現況有姿だから借主負担」と決めると、緊急対応と費用の話が混ざります。

    必要な修繕を貸主が相当期間内に行わない場合や急迫の事情がある場合には、民法第607条の2により借主が修繕できる場面があります。
    借主の責任によらず一部が使えなくなれば、第611条により使用できない割合に応じて賃料が減額されます。借主には、修繕が必要な状態を貸主へ知らせる通知義務もあります(第615条)。

    貸主が事業者、借主が消費者に当たる居住用賃貸借では、消費者契約法第8条・第10条も確認対象です。
    貸主側の損害賠償責任を全面的に免除する条項や、借主の利益を一方的に害する条項は無効となる場合があります。特約の効力は個別事情で変わるため、包括的な文言だけで有効・無効を断定しません。

    判断の軸は、使用・安全・原因・記録の四つです。次の順に見ます。

    判断軸 確認すること 判断への影響
    使用 予定した生活や設備利用に支障があるか 支障が大きいほど修繕を優先する
    安全 施錠、漏電、漏水、転倒、落下などの危険がないか 危険があれば調査・是正を先にする
    原因 経年劣化、借主原因、外部要因、原因不明のどれか 費用負担の材料にするが、緊急対応は遅らせない
    記録 箇所、程度、写真、設備表、説明内容が一致するか 特定できない状態を包括的に了承済みと扱わない

    沖縄では、台風後の雨水侵入、湿気による建具の膨張、塩害による金属部品の腐食が、見た目の古さを漏水や施錠不良へ変えることがあります。台風後や長雨後に再点検し、撮影日を残すことが、契約前の状態と入居後の進行を分ける材料になります。

    また、修繕で空室期間の短縮、賃料維持、将来の大きな修繕の回避が見込めるなら、募集前に対応する経営上の意味もあります。

    この四つの軸で比べると、室内ドアと施錠できない窓はどう分かれるでしょうか。

    室内ドアと施錠できない窓で結論が変わる

    室内ドアは現況共有の余地がある一方、施錠できず雨染みもある窓は、調査・修繕を先にする判断へ寄ります。

    室内ドアの動きが少し重い場合

    洋室ドアの動きが少し重くても、最後まで開閉でき、通行や安全に大きな支障がないとします。

    状態が安定し、内見時に動作確認でき、写真と物件状況確認書で対象を特定できるなら、契約時点の状態として共有する選択肢があります。
    判断理由は「築古だから」ではなく、使用への影響と危険が小さく、状態を記録できるからです。悪化時の連絡先と対応方針も決めておきます。

    窓が施錠できず、雨染みもある場合

    窓のクレセント錠がかからず、台風後に窓枠近くへ雨染みが出ている場合は、防犯と雨水侵入に関わります。

    金具の緩みだけか、塩害による腐食やサッシ周りの防水不良まであるのかを調べ、必要な応急対応と修繕範囲を先に整理します。
    現況写真を見せても、調査や修繕の必要性まで消えるわけではありません。

    二つの違いを契約書へ残す前に、どの資料をどの順番でそろえるべきでしょうか。

    契約書の前に、現地・写真・設備表をそろえる

    最初にそろえるのは契約文ではなく、現地で確認した事実です。次の募集前に、オーナーと管理会社で順番に確認します。

    1. 設備を動かす:開閉、施錠、給湯、漏水などの基本動作を見る。
    2. 状態を分類する:見た目の古さ、使用に支障がある不具合、緊急性がある不具合を分ける。
    3. 記録を特定する:部屋名、部位、症状、撮影日、写真番号、確認者を残す。
    4. 資料を一致させる:募集図面、設備表、物件状況確認書、契約書・特約、説明内容を照合する。
    5. 沖縄要因を再点検する:台風後や長雨後に、雨染み、腐食、建具の変化がないか見る。
    6. 借主と認識を共有する:契約前に現物と資料を示し、確認した事実を残す。
    7. 入居後対応を決める:悪化時の連絡先、点検時期、修繕判断者を明確にする。

    契約書には「築年数相応の不具合」と広く書くより、対象箇所と状態を特定し、別紙や写真番号と結び付けます。
    たとえば、洋室入口ドアについて「開閉時に抵抗があるが通常の出入りは可能」「写真A-03で確認」「悪化時は管理会社へ連絡」と記録する考え方です。

    確認結果を、現況共有・先行修繕・専門確認へどう振り分ければよいでしょうか。

    現況共有・先行修繕・専門確認へ振り分ける

    振り分けは、使用・安全を入口にし、原因と記録で枝分かれさせます。

    1. 使用または安全に支障があるか
      • はい:先に調査・応急対応・修繕を検討する
      • いいえ:次へ進む
    2. 原因不明、進行中、再発中か
      • はい:原因調査を行い、必要に応じて専門家へ確認する
      • いいえ:次へ進む
    3. 対象箇所と程度を写真・設備表で特定できるか
      • はい:現況共有の対象として整理する
      • いいえ:記録を整えるまで包括的な了承で進めない
    4. 修繕義務の免除や広い費用転嫁を含むか
      • はい:契約内容を宅地建物取引士・弁護士等へ確認する
      • いいえ:管理会社と説明・記録・入居後対応をそろえる

    到達点は三つです。
    使用・安全への支障が小さく状態を特定できれば現況共有、生活・安全への影響があれば先行修繕、包括的免責や原因不明、広い費用転嫁があれば専門確認へ進みます。

    今日行うことは、現在の賃貸借契約書を開き、「現況有姿」という一文だけで対象箇所や状態が分からなくなっていないか確認することです。
    次の募集前には、管理会社と室内を見て、古さや不具合を三つの到達点へ分類します。

    現況有姿は免責の結論ではなく、契約時点の状態を双方で確かめる入口です。
    状態を記録すること、使用・安全に必要な修繕を判断すること、原因と契約に基づいて費用負担を考えることを分ければ、過剰修繕と対応不足の両方を避けやすくなります。

    包括的な免責や修繕費の広い転嫁を含む特約は、定型文に頼らず、対象資料をそろえたうえで専門家へ確認してください。

    参考資料

    e-Gov法令検索「民法」、国土交通省「賃貸住宅標準契約書」、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」、e-Gov法令検索「消費者契約法」

  • 損しない賃貸経営|「築年数相応の状態」をどう説明するか

    損しない賃貸経営|「築年数相応の状態」をどう説明するか

    築年数相応の古さは入居前の説明で伝わります

    「床鳴りや建具のズレは、どこまで直すべきなのか」

    築古物件をすでに所有しているオーナーにとって、築年数相応の状態をどこまで説明し、どこから修繕対応すべきかは悩みやすいテーマです。

    壁紙の日焼け、古い設備の見た目、建具の動きにくさなどは、築古物件では珍しくありません。
    一方で、生活に支障がある不具合や安全に関わる問題は、別に考える必要があります。

    入居前に状態を分かりやすく共有できれば、入居後に「聞いていなかった」「直してもらえると思っていた」という認識違いを減らしやすくなります。

    この記事では、築年数相応の状態をどう説明し、契約書や設備表とどうつなげるかを確認します。

    この記事を読むことで、築年数相応の古さと、貸主対応を検討すべき不具合を分けて考えやすくなります。

    築年数相応の状態は入居前に明確にします

    築年数相応の状態は、入居前に写真、設備表、説明文などで明確にしておくことが大切です。

    古さを隠すのではなく、現在の状態を共有したうえで契約することが、入居者との認識違いを防ぐ第一歩になります。

    特に築古・低家賃物件では、賃料水準と物件状態のバランスを入居前に理解してもらうことが重要です。

    なぜ古さと不具合を分ける必要があるのでしょうか?

    理由は、築年数相応の古さと、修繕が必要な不具合が混同されやすいためです。

    たとえば、古い建具が少し重いことと、玄関ドアが閉まらないことは同じではありません。
    床が多少きしむことと、床が大きく沈む状態も同じではありません。

    前者は、物件の状態として説明できる場合があります。
    一方で、後者は防犯や安全、居住性に関わるため、貸主対応が必要になる可能性があります。

    この区別を契約前に整理していないと、入居後に「聞いていなかった」「どこまで直してもらえるのか」という話になりやすくなります。

    床鳴りや建具のズレはどう伝えるべきでしょうか?

    たとえば、築古の建物で、室内建具に少し引っかかりがあるケースを考えます。

    使用に大きな支障がなく、安全性にも問題がない場合は、内見時に現地で説明し、申込前の判断材料として共有します。
    そのうえで、契約前には設備表やチェックシートに記載し、入居時には写真でも残しておくことで、入居後の認識違いを減らしやすくなります。

    一方で、床に大きな段差がある、コンクリートのひび割れや漏水跡がある、建具が閉まらず施錠できないといった状態は注意が必要です。築年数相応という言葉だけで済ませず、募集前または内見前の段階で修繕の要否を確認することが大切です。

    大切なのは、見た目の古さと、生活に支障がある不具合を分けて説明することです。
    見た目の古さは内見時と契約前に共有し、生活に支障がある可能性のある不具合は、募集開始前から管理会社や施工会社と確認しておくと安心です。

    状態の共有が安定運用につながります

    築古物件では、古さそのものをなくすよりも、状態を正しく共有することが重要です。
    共有のタイミングは、募集前の状態確認、内見時の説明、契約前の書面確認、入居時写真の保存という流れで整理しておくと、後から確認しやすくなります。

    特に重要なことは、
    「賃貸人は築年数を踏まえ新築同様の性能・品質まで回復させる修繕義務を負わない」という趣旨を契約書に明記にしておくことです。

    入居者の生活に支障が出る部分は先に対応し、築年数相応として説明できる部分は、入居前・契約時に丁寧に伝えておくことです。

    契約書、設備表、入居時写真、管理会社の説明内容がそろっていれば、貸主と入居者の認識違いを減らし、入居後の修繕対応も判断しやすくなります。

    築古物件を安定して貸し続けるためにも、募集を始める前に一度、物件の状態を点検し、説明すべき内容を整理しておくことをおすすめします。

    ※参考:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」