退去後の再募集で、管理会社から「月3,000円上げても決まりそうです」と言われたら、あなたは上げますか。
家賃を上げれば、満室で続いたときの年間収入は増えます。
一方で、成約が少し遅れるだけで、初年度の収入は下がるかもしれません。
ここで扱うのは、退去後の再募集条件です。
入居中の借主に対する賃料改定は、契約内容や当事者間の協議など別の論点があるため、試算対象には含めません。
この記事では、現行家賃・値上げ額・想定空室日数を使い、値上げしても収入が減らない「空室許容日数」を考えます。
値上げした方が得、と決める前に
まず、月6万円の部屋を月6万3,000円で再募集する例を置きます。
- 現行家賃:月6万円
- 再募集家賃:月6万3,000円
- 値上げ額:月3,000円
12か月入居が続けば、年間賃料は72万円から75万6,000円へ増えます。
差額は3万6,000円です。
この数字だけを見ると、値上げした方が得に見えます。
ただし、比較すべきなのは募集家賃の高さではありません。
同じ1年間で、実際に得られる家賃収入です。
売却を考えている場合は、年間想定賃料が増えることで、物件価格を分母とする表面利回りの数字も上がります。
買主が最初に見る収益条件へ影響する可能性はあります。
ただし、実際の売却判断では、入居実績、経費、賃料の継続性も見られます。
表面利回りを上げることだけを目的に、無理な募集家賃を設定しないことが大切です。
では、年間増収3万6,000円と比べるべき空室損失は、どう計算するのでしょうか。
見るべきは「値上げで増える空室日数」
退去後は、現行家賃のままでも原状回復や募集準備で空室期間が発生します。
そのため、比べるのは退去から入居までの全日数ではありません。
値上げしたことで余計に延びる空室日数です。
例えば、月6万円なら20日で決まると見込まれる部屋が、月6万3,000円では35日かかりそうだとします。
値上げによる追加空室は15日です。
空室許容日数は、次の式で概算できます。
空室許容日数 = 365日 × 月額の値上げ額 ÷ 値上げ後の月額家賃
月6万円を月6万3,000円へ上げる場合は、次の計算です。
365日 × 3,000円 ÷ 63,000円 = 約17.4日
値上げによる追加空室が約17日以内なら、1年間の家賃収入は値上げ前を上回る計算です。
約18日以上長引くと、初年度の収入は値上げ前を下回ります。
この試算は、1年間を365日として家賃を日割りした単純比較です。
実際の契約の日割り方法とは別に、募集判断の目安として使います。
追加空室が1か月になった場合、初年度の差はどこまで広がるのでしょうか。
追加空室1か月なら、初年度は2万7,000円少なくなる
現行家賃ならすぐに入居が決まると仮定します。
値上げ後の家賃では、そこから1か月余計に空室が続く前提です。
| 比較 | 年間の入居月数 | 初年度の家賃収入 |
|---|---|---|
| 月6万円のまま | 12か月 | 72万円 |
| 月6万3,000円、追加空室1か月 | 11か月 | 69万3,000円 |
| 差額 | - | 2万7,000円の減収 |
1か月空けば「6万3,000円を失う」と考えがちです。
ただし、比較対象である月6万円の家賃収入も得られません。
そのため、初年度の差額は2万7,000円のマイナスです。
入居後は、毎月3,000円ずつ差が縮まります。
6万円の空室損失を取り戻すには、20か月の入居が必要です。
募集開始から数えると、1か月の空室後、約21か月目で累計収入が追いつく計算になります。
長期保有を前提にすれば、その後は値上げ効果が積み上がります。
一方、近い時期に修繕や売却を予定している場合は、初年度の減収が資金繰りに与える影響も無視できません。
この約17日という線は、家賃帯や部屋の条件が違っても同じなのでしょうか。
家賃帯と部屋の条件で、許容できる日数は変わる
同じ月3,000円の値上げでも、値上げ後の家賃が高いほど、1日当たりの空室損失は大きくなります。
| 家賃の変更 | 年間増収 | 空室許容日数 |
|---|---|---|
| 5万円 → 5万3,000円 | 3万6,000円 | 約20.7日 |
| 6万円 → 6万3,000円 | 3万6,000円 | 約17.4日 |
| 7万円 → 7万3,000円 | 3万6,000円 | 15.0日 |
月3,000円なら小さな値上げだから大丈夫、とは限りません。
家賃帯によって、許容できる追加空室日数は変わります。
同じ建物でも、間取り、階数、眺望、駐車場の有無、設備、室内状態によって成約しやすい家賃は異なります。
建物全体で一律に値上げするのではなく、退去した部屋ごとに比較する方が現実的です。
空室日数が許容範囲でも、何を足すと初年度の損得は変わるのでしょうか。
広告料やフリーレントを足すと、分岐点は早まる
実際の募集では、空室日数だけでなく、値上げ後の条件で成約するために追加費用が必要になることがあります。
- 仲介会社へ支払う広告料を増やす
- フリーレントを付ける
- 設備を追加・交換する
- 内装の仕上げを変更する
- 募集期間中の共益費や固定費を負担する
判断するときは、2つの案を同じ期間で比較します。
値上げ前の案:現行家賃による想定収入 - 募集に必要な費用
値上げ後の案:値上げ後家賃による想定収入 - 追加空室損失 - 募集に必要な費用
広告料や設備費がどちらの案でも同じなら、比較上は差がありません。
値上げした条件で決めるために追加した費用だけを、値上げ効果から差し引きます。
例えば、年間増収が3万6,000円でも、値上げのために追加で3万円の設備費がかかるとします。
初年度に残る効果は6,000円です。
この状態では、わずかな追加空室でも初年度の収入が逆転します。
では、自分の部屋に当てはめるには、管理会社へどの反応を確認し、いつ見直す約束をすればよいのでしょうか。
管理会社には、家賃ではなく「募集開始後の反応」を聞く
管理会社に、何日で決まるかという確定的な予測を求める必要はありません。
目的は、値上げ後の条件がいまの競合の中で選ばれる余地があるか、反応が弱いときに何を見直すかを共有することです。
現行家賃と値上げ後家賃の2案について、次の順番で確認します。
- いま競合している部屋の条件:間取り、築年数、駐車場、設備が近い募集が、どの家賃・条件で出ているか
- 各案で想定する入居者像:現行家賃案と値上げ案で、どの層からの反応を期待するのか
- 募集開始後に見る反応:問い合わせの内容、内見につながった数、内見後に選ばれなかった理由
- 反応が弱い場合の見直す順番:家賃、広告料、フリーレント、設備・内装のどれを先に動かすか
- 最初の振り返り時点:何日で成約するかを当てるのではなく、いつ反応を見て次の判断をするか
アットホーム「沖縄県の家賃相場・賃料相場」は、市区郡、間取り、面積で絞り込みながら、現在の募集水準を確認する入口になります。
同サイトでは、直近3か月の掲載物件情報をもとに相場を算出しています。
ただし、これは掲載物件の平均であり、実際に成約した賃料や、あなたの部屋の成約日数を示すものではありません。
相場ページで家賃帯の候補をつかんだうえで、駐車場、設備、築年数、室内状態まで近い掲載物件を個別に比べます。
最終的には、直近の類似物件の募集条件と、募集開始後の反応を優先して確認します。
最後に、現行家賃、値上げ後家賃、年間増収、追加空室日数、追加費用、最初の振り返り時点を1枚に書き出します。
空室許容日数に近い場合は、3,000円上げるか据え置くかの二択にしません。
1,000円刻みの複数案、設備改善を先に行う案、募集開始後の反応を見て調整する案も並べます。
比べる数字をそろえれば、家賃を上げるかどうかを感覚ではなく、保有方針と資金繰りに合わせて判断しやすくなります。
考資料
本記事の計算は、募集条件を比較するための単純試算です。
実際の賃料設定や募集期間は、物件の状態、地域、時期、競合物件、募集方法などにより異なります。
